Claude Cowork を統制・管理する方法 — 組織設定・MDM・OpenTelemetry の 4 層で考える

Claude Cowork は、フォルダをマウントしてファイルを読み書きし、コネクタ(MCP)やスキルを実行するエージェントです。「読んで答える」Chat と違い、組織のデータに対して実際に手を動かします。だから管理者にとっての問いは「使わせるか」ではなく「どう統制して使わせるか」です。この記事では Cowork の統制を、組織設定・デバイス(MDM)・コスト・監視の 4 層に分けて、2026 年時点の公式情報で設定レベルまで具体的に整理します。
目次
前提 — 2 種類のセッションを区別しないと統制設計を誤る
Cowork は 2026 年 4 月 9 日に全有料プランで一般提供になり、同時にエンタープライズ向けの管理機能(グループ・カスタムロール・支出上限・利用分析・OpenTelemetry)が拡充されました。統制の各論に入る前に、押さえるべき前提が 1 つあります。Cowork のセッションには実行場所の異なる 2 種類があり、この区別が履歴の保存先・監査手段・監視の可視性のすべてを決める、ということです。
| ローカルセッション(デスクトップ) | クラウドセッション(Web・モバイル) | |
|---|---|---|
| 実行場所 | エージェントループは端末上、コード実行は隔離 VM(macOS: Apple Virtualization.framework / Windows: Hyper-V) | Anthropic 管理インフラ上の一時サンドボックス(セッションごとに作成・破棄) |
| 会話履歴の保存先 | 端末ローカル。標準のデータ保持ポリシー対象外で、管理者が中央から管理・エクスポートできない | メンバーの Claude アカウント(Anthropic サーバー)。Team/Enterprise の商用条件で扱われる |
| ネットワーク境界 | アプリ層の権限制御 + VM 側のフィルタリング。組織のネットワーク設定が適用される | 既定で社内ネットワークへ到達不可。全通信が迂回不能なプロキシを経由し、許可先のみ接続 |
| Compliance API | 対象外 | 対象(Chat と同じ監査トレイルにセッションが載る) |
| OpenTelemetry | 対象 | 対象 |
つまり「デスクトップ中心で使わせるなら、テレメトリを設定しない限り組織には何も残らない」が出発点です。これを踏まえて、統制を 4 つの層で見ていきます。
第 1 層: 組織設定 — 誰に・どのセッションを・どんな承認で許すか
組織側の設定は管理コンソールの Organization settings > Cowork に集約されています。最上位のスイッチは「Enable for your organization」で、組織全体の有効/無効を切り替えます。ここからの粒度がプランで異なります。
- Team — 有効/無効は組織一括のみ(部署別の出し分けは不可)。
- Enterprise — グループ(手動または ID 基盤からの SCIM 同期)とカスタムロールを組み合わせて、特定のチームだけに Cowork を有効化できる。
クラウドセッション(「Run Cowork in the cloud」トグル)は既定値がプランで逆です。Team は既定で有効(オーナーがいつでも無効化可能)、Enterprise は既定で無効で、オーナーが有効化したうえでカスタムロールにより付与します。Enterprise で「Web から Cowork が使えない」という問い合わせが来たら、まずこの既定値を疑ってください。
次に承認ポリシーです。Organization settings > Cowork > Permissions の「Allow 'Always allow' for connector tools」トグルは、書き込みを伴うコネクタツールについて、メンバーが「全タスクで許可(毎回の承認をスキップ)」を選べるかどうかを組織として決めます。オフにすると常に都度承認になります。読み取り専用ツールは、コネクタ側が明示的に読み取り専用と注釈している場合のみ承認なしで実行されます。さらに Enterprise 向けの管理機能として、コネクタ内の特定アクションだけを組織全体で制限する per-tool 制御(例: 読み取りは許可し書き込みは無効化)も提供されています。
- プラグイン — オーナーがプラグインマーケットプレースを作成し、「Installed by default / Available / Required / Not available」の 4 段階で配布を制御。Enterprise ではグループ別に出し分け可能。
- ネットワークアクセス — Organization settings > Capabilities の Code execution 設定でセッションの外部接続先を制御。変更は新規セッションから適用され、進行中のセッションには及ばない。なお web fetch / web search ツールはこのネットワーク設定の対象外。
| 統制機能 | Team | Enterprise |
|---|---|---|
| 組織一括の有効/無効 | ○ | ○ |
| グループ・カスタムロール別の有効化(SCIM 同期) | — | ○ |
| クラウドセッションの既定値 | 既定で有効(無効化可) | 既定で無効(ロールで付与) |
| コネクタの「Always allow」を組織として禁止 | ○ | ○ |
| プラグイン配布の制御 | ○(組織一律) | ○(グループ別) |
| グループ支出上限 | — | ○ |
| Compliance API(クラウドセッション) | — | ○ |
| OpenTelemetry 監視 | ○ | ○ |
| MDM によるデバイス統制 | ○ | ○ |
第 2 層: MDM — デバイス側で Cowork の境界を引く
組織設定はサインイン後の世界の話です。その手前、デバイス側の統制は Claude Desktop の管理ポリシー(Team / Enterprise の管理者向け)で行います。macOS はドメイン com.anthropic.claudefordesktop の構成プロファイル(Jamf Pro・Kandji・Intune など)、Windows はグループポリシーまたは Intune でマシン単位(HKLM)/ユーザー単位(HKCU)のレジストリに配布します(マシン単位が優先)。
| キー | 型 / 既定値 | 何を統制するか |
|---|---|---|
secureVmFeaturesEnabled | Boolean / true | Cowork(VM 実行機能)そのものの有効/無効。デバイス単位で Cowork を止める最終スイッチ |
allowedWorkspaceFolders | string[] / 無制限 | Cowork がマウントできるフォルダの制限。「触らせてよいデータ」の境界をパスで引く |
forceLoginOrgUUID | string または array / null | 指定した組織アカウントでのログインを強制。会社デバイスでの個人アカウント利用を防ぐ |
isLocalDevMcpEnabled | Boolean / true | ローカルで構成された MCP サーバー(プラグイン同梱含む)の無効化 |
isDesktopExtensionEnabled | Boolean / true | デスクトップ拡張(MCPB / DXT 形式の MCP サーバー)のブロック |
isClaudeCodeForDesktopEnabled | Boolean / true | Desktop アプリ内の Claude Code の有効/無効 |
disableAutoUpdates / autoUpdaterEnforcementHours | Boolean / false・整数 / 72 | 自動更新の無効化と、更新のための強制再起動までの猶予時間(1〜72 時間) |
実務でまず入れるべきは forceLoginOrgUUID と allowedWorkspaceFolders の 2 つです。前者は「組織の統制が及ばない個人アカウントで Cowork が動く」経路を塞ぎ、後者は万一の誤操作やプロンプトインジェクション時の影響範囲をマウント可能なフォルダに限定します。MCP・拡張系のキーは、コネクタの統制を組織設定側(承認ポリシー)でやるかデバイス側で全面的に止めるかの選択です。
第 3 層: コスト — 支出上限と利用分析
Cowork はエージェントとして自律的にツールを回すぶん、Chat よりトークン消費が読みにくい機能です。コスト統制の手段はプランのコストモデルに従います。Enterprise(usage-based)では利用が最初の 1 トークンから従量課金されるため、管理コンソールからグループ単位の支出上限を設定して歯止めをかけます(チームごとに予算を割り当て、導入の進み方に応じて調整する運用)。Team では定額シートの利用枠に内包され、枠超過は usage credits 側の組織・メンバー別上限で制御します。プラン自体の選び方は姉妹記事「Claude Team と Enterprise、どちらを選ぶべきか」を参照してください。
利用の把握には 2 つの公式手段があります。管理ダッシュボードには Cowork のセッション数とアクティブユーザーが期間別に表示され、Analytics API ではユーザー別の Cowork アクティビティ、スキル・コネクタの起動回数、DAU/WAU/MAU を、Chat・Claude Code のデータと並べて取得できます。定期レポートを組むなら Analytics API、リアルタイムの実行内容まで追うなら次節のテレメトリ、という使い分けです。
第 4 層: 監視 — Compliance API と OpenTelemetry の役割分担
監査・監視の公式チャネルは 2 つです。まず Compliance API(Enterprise)。かつて Cowork は対象外でしたが、現在は Web・モバイルのクラウドセッションが Chat と同じ監査トレイルに載り、各セッションを個々のユーザーに帰属させて取得できます。SIEM・DLP 連携もこの経路に乗ります。
ただし冒頭の前提のとおり、ローカルのデスクトップセッションは Compliance API の対象外です。会話履歴は端末ローカルに保存され、標準のデータ保持ポリシーが適用されず、管理者が中央から管理・エクスポートすることもできません。ローカルセッションを組織として観測できる公式チャネルは、次節の OpenTelemetry だけです。
Cowork の OpenTelemetry を設定する
Cowork の OpenTelemetry エクスポートは Team・Enterprise プランで利用できます。バージョン要件は、ローカルセッションが Claude Desktop v1.1.4173 以降、クラウドセッション(Web・モバイル)の取り込みが v1.22209.3 以降です。設定は管理者が Organization settings > Cowork で行い、入力するのは次の 3 項目だけです。
OTLP endpoint: https://collector.example.com # コレクタの URL
OTLP protocol: HTTP/protobuf # または HTTP/JSON(gRPC は不可)
OTLP headers: Authorization=Bearer <token> # 認証ヘッダー(保存時に暗号化)重要な性質が 2 つあります。第一に、エンドポイントを設定しない限りデータは一切送信されません(既定は無送信)。第二に、送信されるのはメトリクスの数字だけではなく、セッションの実行内容そのものです。
- ユーザープロンプトの全文
- ツール・MCP 呼び出し — サーバー名・ツール名・パラメータ・成否・実行時間
- ファイルアクセス — 読み取り・変更したパス
- スキル・プラグインの起動
- 承認判断 — ユーザーが承認したか・拒否したか・既存の許可により自動実行されたか
- リクエスト単位のモデル・トークン数・概算コスト・所要時間・エラー
各イベントは共通の prompt.id 属性で紐付くため、「この指示から何が実行されたか」を 1 本のトレイルとして再構成できます。属性にはユーザーのメールアドレスが含まれ、誰の操作かを特定できます。Splunk や Cribl などの SIEM・ログ基盤にそのまま流せて、Compliance API とはユーザー識別子で突合しながら並行運用できます。
導入手順 — 「配ってから統制」ではなく「統制してから配る」
ここまでの 4 層を、実際の展開順序に落とすと次のようになります。ポイントは、観測(OpenTelemetry)を展開より先に入れることです。テレメトリは設定した時点以降しか記録されないため、後から入れると導入初期の利用実態——本来いちばん見たいデータ——が永久に欠けます。
- ポリシーを決める — 誰に許すか(Enterprise ならグループ設計から)、クラウドセッションを許すか、コネクタの「Always allow」を認めるか。
- MDM を先に配る —
forceLoginOrgUUIDで組織アカウントを強制し、allowedWorkspaceFoldersでマウント可能なフォルダを限定。Cowork を許可しない端末群にはsecureVmFeaturesEnabledを false に。 - OpenTelemetry を設定する — Organization settings > Cowork にエンドポイント・プロトコル・認証ヘッダーを入力し、テスト用ユーザーでイベントが届くことを確認。
- 組織設定で有効化する — Team は一括、Enterprise はパイロットのグループから。クラウドセッションの既定値(Team: 有効 / Enterprise: 無効)を意図どおりか確認。
- 承認ポリシーは厳しめに始める — 「Always allow」を許可せず都度承認で開始し、運用が回り始めてから緩める。逆方向(緩→厳)は反発が大きい。
- 支出と利用を見る — ダッシュボードと Analytics API で利用の分布を、テレメトリで実行内容とコストを確認し、グループ支出上限や許可範囲を調整。
Claude Code をすでにテレメトリで統制している組織なら、3 の手順は送信先を流用するだけです。まだの場合は、Claude Code 側の統制も含めて姉妹記事「Claude Code のコストガバナンス」で実装手順を解説しています。
よくある質問
Team プランでも Cowork を統制できますか?
かなりの範囲まで可能です。組織一括の有効/無効、クラウドセッションの無効化、コネクタの「Always allow」禁止、MDM によるデバイス統制(Cowork 自体の無効化・フォルダ制限・組織アカウント強制)、OpenTelemetry 監視までは Team で使えます。Enterprise が必要になるのは、グループ・カスタムロール別の有効化、グループ支出上限、Compliance API(クラウドセッションの監査トレイル)が要件になったときです。
Claude Code で使っている OTel の環境変数設定を Cowork に流用できますか?
設定方法は流用できません。Cowork のテレメトリは組織設定(Organization settings > Cowork)で管理者が一元設定する方式で、`OTEL_EXPORTER_OTLP_ENDPOINT` などの環境変数では制御できません。ただし送信先は共通にできます。OTLP エンドポイントと認証ヘッダーに Claude Code と同じ値を指定すれば、両方のテレメトリを同じ収集基盤に集約できます。プロトコルは HTTP/JSON か HTTP/protobuf のみで、gRPC は使えない点に注意してください。
Cowork の操作は EDR やエンドポイント監視ツールで見えますか?
見えません。ローカルセッションのコード実行はホストのセキュリティツールから設計上隔離された VM 内で行われ、クラウドセッションは端末の外(Anthropic 管理のサンドボックス)で実行されます。組織として実行内容を観測する公式チャネルは、Compliance API(クラウドセッションのみ)と OpenTelemetry(ローカル・クラウド両方)の 2 つです。
OpenTelemetry ではどこまで詳細なデータが流れますか?
プロンプトの全文、ツール・MCP 呼び出しのパラメータ、アクセスしたファイルパス、承認判断、モデル・トークン数・概算コスト、そしてユーザーのメールアドレスが含まれます。既定では一切送信されず、管理者がエンドポイントを設定した場合にのみ送信されます。機微情報のマスキングは collector 側で設計してください。この粒度の記録は実質的に従業員モニタリングなので、導入時は社内規程との整合と本人への告知もあわせて確認することを推奨します。
統制の仕上げは「測る」こと
Aimeterly は Claude Code のテレメトリを受けて、ユーザー別・モデル別のトークン消費と概算コストを可視化するサービスです。受信エンドポイントは OTLP/HTTP + Bearer 認証なので、Cowork の OpenTelemetry 送信先の要件もそのまま満たします。許可範囲を設定して終わりにせず、実際の利用を数字で確認するところまでがガバナンスです。
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